本好き60代が読んだ本

海外小説、ノンフィクション、科学、歴史など読んだ本の感想です。

『世界最悪の旅』 アプスレイ・チェリー=ガラード

『世界最悪の旅』 アプスレイ・チェリー=ガラード 加納一郎訳 河出書房新社

 

『人類初の南極越冬船 ベルジカ号の記録』からの『世界最悪の旅』。冒険ものが読みたくなった。

 

著者のいう「世界最悪の旅」は、スコット隊の南極への遠征そのものではなく、著者たち3人がコウテイペンギンの卵を手に入れるため営巣地へ向かい奇跡的に帰還した旅のことだった。

 

本作は、第一部がこの世界最悪の旅をまとめたもの、第二部がスコット隊5人の南極点への道のりと遭難の顛末をまとめたものになっている。

 

南極探検というと、「スコットvsアムンセンの物語」を想起する人が多いと思うが、少なくとも私はそう思っていたが、アムンセンが一番乗りで勝者、スコットは二番手、しかも帰途に隊員全滅の敗者という認識はありなのか、本当にそんな勝負はあったのか?

 

そんなことを思いながら読み進め、読了後は「スコットにはスコットの、アムンセンにはアムンセンの南極を目指す理由があった」ことを知り、見方が変わった。

 

目頭が熱くなり、胸が苦しくなる場面がいくつもあった。あと少しだったのに。ほんの20キロが永遠に遠かった。自然はいとも簡単に人の命を奪う。人間はちっぽけな存在だ。

 

訳がちょっと古くて読みにくいところはあったものの、読んでよかった。現代の私たちの生活は、先人たちの苦労と犠牲の上に成り立っていることを痛感した一冊だった。