『氷壁』 井上靖
そうきたかー。まさかのラストに絶句、これが小説だよね。
いやおもしろかった。
最初は昭和の香りがプンプンしてちょっと・・・と思ったけど、それさえもクセになるくらいぐいぐい引き込まれた。
現実にあったナイロンザイル事件をもとに書かれているから、どういう展開になるかなんとなく想像できたけど、最後はやっぱりフィクション、小説として見せ場を作って the end。
でもねぇ、他に終わり方なかったのかなぁと思う、本当に唖然としたよ。
「切れるはずのない」ザイルが切れた。ザイルの強度が問題だったのか、魚津が保身のため親友小坂を見捨てて切ったのか、小坂が自身で切ったのか(自殺)。
魚津と小坂、小坂と美那子、魚津と美那子、魚津とかおる。美奈子と教之介。複数の関係性が絡み合う。
男同士の友情。人妻に対する愛情。そして山に挑む男・魚津のたどった運命はいかに。
・・・まとめるとそんな話。
「山 vs 都会」はすなわち「自然 vs 世間」であり、その対比、切り替えの描写が鮮やかだった。 同時に、やっぱり人は自然には逆らえないちっぽけな存在だと痛感。
そして何といっても、美那子への思いを断ち切り、かおるへと向かった魚津の最後があまりにも切なかった。美那子がそんなによかったのかよと思ったのは私だけではないはず。
その他感じたことをまとめると、
1、魚津の上司(支店長)常盤のキャラがすごくいい
冒険とはリスクを冒しても突き進むこと、勝利や成功というものは八分までは理性の受け持ちだが、残りの二分は常に賭けだ (同感!)
人間を信じるということは、その人間のやった行為をも信じるということ。・・ザイルは実験では切れなかったが山では切れた。世間の人は信じないかもしれないがおれは信じる。おれ一人が信じるだけでは不足か (カッコいい!)
魚津君はなぜ死んだか。彼が勇敢な登山家だったからだ。・・・山を征服しに、あるいは自分という人間の持つ何ものかを験すために、一人の登山家として行ったのだ (痺れる!)
2、人妻美那子のキャラが弱い
一時の過ちとはいえ男と関係を持ったのに、あまりにも清純で、お気楽で、拍子抜け。もっと小悪魔的なエロさがあってもよかったのにと残念。(山男ストーリーには不向きか?)
最後に、
ナイロンザイル事件(ナイロンザイルじけん)、もしくはナイロンザイル切断事件(ナイロンザイルせつだんじけん)は、1955年(昭和30年)1月2日に日本の登山者が[1]、東洋レーヨン(現在の東レ)のナイロン糸を東京製綱(現在の東京製綱繊維ロープ)で加工した[2]、ナイロン製のクライミングロープ(ザイル、以降ロープと記述する)を原因として死亡した事件。また、それに端を発した日本の登山界での騒動である。 (ウィキペディアより)